とある雑誌に「好きな女性に言われて、思わず抱き締めたくなる言葉は?」というテーマがあった。そこで1番多かったのが「ぎゅっとして」。あと、素直に「好き」とか、あるいは「言葉よりも態度」とかがあった。けど、とりあえず・・・。





そんなことが言えたら、苦労しないよ・・・!!





私、は、ありがたいことに、同じ部活の向日先輩という方とお付き合いをさせていただいている。もちろん、付き合っているから、向日先輩も私のことを好きでいてくれているのはわかってる。・・・・・・わかってるけど!!
だからと言って、簡単に「好き」と言える勇気なんて、私には無くて・・・。告白だって、向日先輩からだったし・・・。そのときは、たしかに返事のために、自分も言えたけど・・・。今、そんなことを急には言えない。
さらに、「ぎゅっとして」なんて、もっと言えない・・・!!!だって、今までの人生で、1度も使ったことのないフレーズだよ?!!そんな言葉を出せるわけがない。それに、年上の先輩に向かって「〜してください」なんて頼みにくいし・・・。
あと、「言葉より態度」っていうのも、どうすればいいのか、全然わからないし・・・。





「はぁ・・・。」





いや、別にどうしても抱き締めてほしいってわけじゃない。と言うか、もうそういうことを考えるだけで既に恥ずかしいし・・・。でも、やっぱり付き合ってるんだから、たまには、そういうことも・・・とか思っちゃうわけで。
もちろん、部活が忙しいとは言え、向日先輩とは2人で遊びに行ったり、連絡したりもしてるし・・・。その上、同じ部活なんだから、学年が違っても毎日会えるし・・・。何も文句は無い。何も。
ただ、ちょっと、その・・・。うん・・・。あの・・・。
と、とにかく!!ちょっとぐらい、そんなこと考えたっていいじゃない・・・!!
・・・って、私、誰に対して逆ギレしてるんだろ。





「あぁ・・・!もう・・・。わけ、わかんない〜・・・。」





私は部活で使ったタオルなんかを干しながら、誰もいないことをいいことに、好きなように声を出していた。・・・・・・・・・そうしたら。





「どうしたんだ、。何が、訳わかんねぇんだ?」

「わぁ〜!!!!!む、向日先輩!!!!」

「いや、ビビりすぎだし。何だよ、もしかして・・・訳わかんないってのは、俺のことか?」

「ち、違います、違います!!」

「・・・誰かが言ってたなぁ。人間、嘘吐くときは言葉を2回繰り返す奴が多いって。」

「!!」

「反論がないってことは、やっぱり俺のことなんだな?」

「だから、違いますってば!!」





少し怒り気味に、向日先輩がそう言うから、私は慌てて否定した。だって、本当に向日先輩が訳わからないんじゃないもん。ただ・・・、その・・・。どうしたらいいのか、ってことがわからなかっただけで・・・。





「じゃ、何?」

「えぇっと・・・。ちょっとした・・・悩み事、です。」

「ふぅ〜ん。ま、いいけど。・・・で、その悩みって?」

「え?!」

「悩みがあんなら、話してみろよ。俺が聞いてやっから。」

「いえいえ!!そんな・・・。全然、大したことじゃないんで・・・!!!」

「・・・・・・本当に、悩み事なんてあったのか?やっぱり、俺のこと・・・。」

「違います!本当にあるんですって!!」

「じゃ、それは俺にはどーしても言えない、ってことなんだな?」





そんなことはない・・・。むしろ、これは向日先輩に言えば、即解決することだ。でも・・・、できない・・・!!
だけど、先輩に「どーしても言えない」わけじゃない。と言うか、言わないとダメなんだよね・・・。いや、別に言う必要は無いけど!でも、先輩がせっかく、ここまで心配してくれてるし・・・。





「・・・じゃ、先輩。部活が終わった後。・・・ちょっと、時間ください。」

「ん、OK!・・・あんま、無理すんなよー。」





私が少し落ち込んだ表情をしていたから、だろうか。先輩は、優しくそんな声をかけてくれた。・・・・・・あぁ、もう!!先輩、好きです・・・!
とか、心の中でなら、思えるのに・・・。やっぱり、声には出せない。
・・・・・・部活が終わるまでに、それらしい別の悩みでも考えておこうかな。でも、それって、結局何も解決しないもんね・・・。
あぁ、どうしよう・・・!!本当に、どうしよう・・・。



なんて、慌てふためいていたら・・・。いつの間にか、部活が終わっていた。
あぁ!!どうしよう・・・!!





ー。・・・どうする?」

「あの・・・。とりあえず、私も部誌を書くんで・・・。その後、でいいですか?」

「おう!じゃ、俺、着替え終わったら、この部屋に戻ってくっから。」





向日先輩は笑顔でそう言うと、少し急ぎながら、隣の部室へ着替えに行った。
・・・よし。向日先輩が戻ってくるまでに、何かしら、対策を・・・とか思っていたけど。本当に先輩は急いでくれたみたいで、すぐにこっちに戻ってきてくれた。





「俺、ここで座っとくな!書き終わったら、言ってくれよ。」

「はい・・・。」





はぁ・・・。部誌を書きながら、対策は練れないし・・・。と言うか、先輩が近くに居るってだけで緊張するから、まともに考えてられないし・・・。
もう、これは自棄になれってことかな・・・。もう自棄になっちゃおうかな・・・。・・・むしろ、なれたら楽なんだけど。





「先輩。書き終わりました・・・。」

「そっか、お疲れ。・・・で、悩みって?」

「・・・その・・・悩みってほどじゃないんですが・・・。」

「うん。何でも聞くから。」

「・・・・・・・・・・・・それじゃあ、とりあえず。その前に、別の話。いいですか?」

「別の話?・・・それを話した方が、はその後、楽に話せるってことか?」

「はい。」

「それなら、いいぜ。」





とにかく、これは悩みではない。軽いテーマとして、話をしてみよう・・・。





「え〜っと、ですね・・・。この間、ちょっと雑誌を立ち読みしてたんですね?そしたら、まぁ・・・ちょっと面白いテーマがありまして・・・。」

「へぇ〜。どんな?」

「そのー・・・。『好きな女性に言われて、思わず抱き締めたくなる言葉は?』って感じでした。」

「・・・なるほどねー。」

「で、結果は・・・『ぎゅっとして』っていうのが1番でした。」

「そうなんだ。」

「あと・・・『好き』とか、あるいは『言葉よりも態度』とか・・・。」

「うんうん。そういうのがあるわけか。」

「はい。・・・で、先輩はどう思われます?」

「へ?俺??」

「はい・・・。あの!向日先輩ならどういう言葉か、って言うより、この結果についてどう思うかって話で・・・。」





向日先輩がどんな言葉がいいか?なんて、聞いてしまったら、それはそれで軽いテーマじゃなくなる気がして、慌てて私は言葉を足した。・・・この時点で、もう軽くないか。





「あぁ、その結果ねぇ・・・。『ぎゅっとして』が1番なんだっけ?」

「はい。」

「あと・・・『好き』とか、『言葉より態度』とか・・・。まぁ、普通なんじゃね?俺も、そう思ってる奴が多いと思う。」

「そう、ですか・・・。」

「・・・・・・これが、別の話??」

「・・・・・・・・・そうとも言えますし・・・、そうじゃないとも言えますね・・・。」

「ん?どういうこと?」

「・・・・・・・・・・・・。」





向日先輩は、とても不思議そうな顔をしていた。・・・当然だよね。私が、中途半端な答えを返すから・・・。でも、やっぱり、具体的に言うのは恥ずかしくて、私は黙ってしまった。すると、向日先輩が話を続けた。





「・・・・・・・・・。とりあえず。これがの悩みと全くの無関係じゃないってことは、もう少し、この話をしてもいいってことだよな?」

「・・・えぇ、それは構いませんけど。」





一体、何をどうやって続けるつもりなんだろう・・・。そう思っていると。





「じゃあ、俺からも質問。・・・は、その台詞、言ってくれないわけ?」

「!!・・・その台詞って言うのは・・・・・・。」

「『ぎゅっとして』でも『好き』でも、いいけど?」

「そ、それは・・・。」





それが言えないのが、悩みなんですよ、向日先輩!!・・・とも言えないわけで。





「言ってくれないんだ・・・?」

「い、いえ、その・・・。私なんかが言っても・・・。」

「何言ってんの。『好きな女性に言われて、』ってテーマだろ?俺の場合、じゃん。」

「そうかもしれないですけど・・・。」

「かも、じゃなくて。そう!なの。」

「はい・・・。でも!!先輩は、その台詞がいいとは言ってないじゃないですか。」

「あぁ、俺ね。うーんと、じゃあ。俺は『ぎゅっとして』がいい。・・・はい、答えたんだから、言ってくれよ?」

「でも、今、『じゃあ』って言ったじゃないですか!」

「だって、俺もそれがいいって思ってたんだし。周りと一緒じゃつまらねぇけど、それがいいから、『じゃあ』仕方なくってこと。それがいいっていうのは、マジで思ってんだから。」





それでも・・・!!とかかんとか続けて、とにかく私は言えませんって、態度を示そうと思った。それなのに。・・・・・・先輩はすごく寂しそうに言った。





「言いたくないんだ・・・。」

「そ、そんなわけは、ないじゃないですか・・・!!」

「じゃあ、言って?」





そして、今度はとびきりの笑顔。
してやられた・・・。そんな感じがした。・・・あぁ、もういいよ!!今度こそ、自棄だ!!
そう思って、私は席を立った。それを見て、向日先輩も立ち上がり、こっちに来てくれた。すごく恥ずかしいのを我慢して、私は下の方を見続け・・・・・・・・・意を決した。





「・・・向日先輩。・・・・・・・・・・・・ギュッてし・・・。」



“ガバッ!・・・ぎゅっ”



「せ、先輩!!私まだ言い切ってません・・・!!!」

「あぁ、悪い悪い。今のは、アレだ。『言葉より態度』って方だったんだ。」

「・・・・・・。」

「だって、、すっげぇ恥ずかしそうに言うからさ。もう可愛くて、可愛くて・・・。」

「あの・・・。こういう状況のまま、そういうこと言うの、やめてもらえません・・・?」





だって、まだ先輩に抱き締めてもらってる状態なんですよ?!!これだけでも、充分恥ずかしいし・・・。自分が言いかけていた言葉自体も恥ずかしいし・・・。その上、追い討ちをかけるように、そんな言葉を言われても・・・・。たぶん、心臓とかが保たないと思う。





「無理!しかも、もう言っちまったし。」





それなのに、向日先輩は、嬉しそうにそう言った。・・・・・・たぶん、これ、死にますよ、私。





「・・・で?悩み、言う気になったのかよ。」

「もう、いいです・・・。なんか、もう・・・。むしろ、どうでもいいです・・・。」

「は?何だよ、それ?!」

「だって・・・。この言葉が言えないって、悩んでたんですもん・・・。だから、もう言ったから、いいです・・・。」

「・・・・・・それが悩み?」

「・・・そうですけど。」

「あのさぁ、。さっきの言葉、そのまんまお前に返す。・・・・・・こういう状況で、そういうこと言うの、なし!可愛すぎ!!」

「私は、そこまで言ってません!!」





なんか、本当に、これこそ『訳がわからなく』なって、私も変なところにツッコミを入れてしまった。





「まぁ、いいや。とにかく。は、このことで悩んでたんだな?」

「・・・・・・はい・・。」

「そんなの、いつだって言えばいい。・・・まぁ、今回は無理に言わせちまった、ってとこもあるけど。これからは、の好きなときに言えばいいよ。」

「・・・別に、今回だって無理に言ったわけじゃないですよ。・・・言いたいからこそ、悩んでた・・・わけですから。」

「・・・・・・・・・あと。正直、何も言われなくたって、こっちはいつでもギュッてしたくなる。」

「・・・そういえば。そういう回答もありました。『何も言われなくても』とか『何を言われても』とか・・・。」

「そういうこと。だから・・・、も言いたいときに言えばいいから。どうせ、恥ずかしいとか思ってるんだろうけど、そんなのわかりきってることだろ?俺だって、そりゃ、恥ずかしいよ。でも、それ以上に、俺はに自分の気持ちとか正直に伝えたいって思うから。」

「・・・・・・わかりました。・・・では、先輩。もう1つ言わせてください。」

「うん。何でも、どーぞ。」

「・・・・・・・・・好き、です。」

「俺も。大好き。」





本当・・・何してるんだろう・・・。そんな風に思う。・・・何、恥ずかしいこと言っちゃってるんだろう、って。
だけど・・・。先輩も言ったように、これが自分の気持ちだから。素直に伝えた方がいいんだよ、きっと。・・・・・・いや、きっとなんかじゃない。たしかに、恥ずかしいけど、やっぱり幸せだと思うもん。幸せだと思えるってことは、これは間違ってなんかいないんだ。
・・・だから、これからは、もう少し、素直に言えるよう頑張ってみますね、先輩。













 

向日さん、お誕生日おめでとうございます!正直、誕生日のために書いたわけじゃなく、たまたま向日夢が完成したので、じゃ、せっかくだし・・・と誕生日にアップしただけの作品です(笑)。よって、誕生日とは一切関係の無い話でした;;
とりあえず、おめでとうございます☆

ちなみに、この話の基となったのは、雑誌ではなく。とある乙女ゲーのキャストさんのコメントでした(笑)。そこに「恋人に言われたら思わずぎゅっとしたくなってしまう言葉は?」という質問があったんです。なので、キャストさん方の意見を参考にさせていただきました!
あと、面白い意見は・・・「泣きながら『大っ嫌い!』」という方もいらっしゃいました。・・・結構、マニアックだと思うのは、私だけですかね(笑)。

('08/09/12)